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スキンーコア各部の機械的性質にはたす役割は古くより論ぜられ,一般にスキン部の強度が大きいと考えられてきた。Chamberlainらは,不均一酢化法により剥皮した人絹につきこの傾向を実際に呈示した。しかし,この方法では酢化中の崩壊はまぬかれず,またケン化をアルカリ性で行うため,その影響が懸念される。そこで,著者らは,不均一硝化法により剥皮した人絹につき,剥皮操作中の繊維の劣化を検討しつつ機械的性質を測定し,その分布状態を調べた。ビスコース人絹の最外層部はほとんど強度を負っていず,いわゆるスキン部付近に最大値があり,内部に至ると次第に減少する。タイヤコード人絹では一般に衣料用ビスコース人絹より分布は小さい。ベンベルグ人絹の分布はまた特有の分布形態をもっているが,これらの分布様式と繊維の微細構造につき,その関連を考察した。

熱処理により人絹の膨潤度を低下させる研究はいろいろ試みられているが,ここでは熱処理時の水の存在状態におもに着目した。すなわち,一方は封管中で繊維と所定量の水を十分平衡状態としたのち熱処理し(I形式)他方は封管中に繊維と水を分離して入れ,熱処理時にアンプルを毀し過熱水を繊維と接触させた(II形式)。そして,水分量を変えた一連の試料をえた。これらの試料につき,X線,ヨウ素吸着等より結晶性を調べ,膨潤度を測定し,また機械的性質,赤外線吸収スペクトルを検討した。その結果,この2形式は,熱処理時の挙動を異にしていることを認めた。I形式処理の方が,より少ない水量で低い膨潤度を示し,繊維の崩壊も少ない。また,赤外線吸収スペクトルにおいて,11μ の吸収強度は膨潤度の低下とともに増大する。

紡糸後,一度も乾燥をうけていない人絹の最初の乾燥条件と微細構造との関連を明らかにするため,まず対照的な二,三の条件で乾燥した人絹の膨潤度, ヨウ素吸着量, 重水に対するAccessibilityを測定し, 更に硝化剥皮法により剥皮した人絹につき,重合度およびヨウ素吸着量を測定し,それらの半径方向の分布を求め,スキンーコア形成に及ぼす乾燥条件の影響をしらべた。その結果,乾燥条件はX線,重水に対するAccessibilityには余り反映しないが,ヨウ素吸着量には著しい差異を示している。また,ゆるやかに乾燥した糸ほど半径方向の重合度分布はゆるやかで,同時にスキンの厚さも厚い。この事実は繊維の断面写真からも観察された。これらの結果は,乾燥条件を検討する際,スキンーコア形成の因子をも考慮すべきことを示すものである。

人絹の半径方向の不均一性の一つとして, 結晶度の分布があげられるが, 従来からスキン部よりもコア部の結晶性がすぐれており,それが人絹の物性に大きく寄与していると考えられてきた。そこで著者らは, 不均一硝化法により剥皮した人絹についてヨウ素吸着量を測定し, 半径方向に著しい分布があり, しかもそれが重合度分布に対応しており, 人絹の種類により分布様式の異なることを知った。一般に,ビスコース人絹ではスキン部の吸着量が大きく,コア部では小さいが,ベンベルグ人絹では表面の吸着量は小さい。吸着量の絶対値は,べンベルグ人絹,衣料用ビスコース人絹,タイヤコード人絹の順に大きい。