クワシロカイガラムシの外部形態,とくに口器・生殖門・生殖門周囲孔・背縁分泌孔および腺剌などの諸器官を走査電子顕微鏡によって観察し,また,桑条組織中における口針のそう入と吸汁部位,口針の植物組織中における進入が,その経路の植物細胞の生理障害に及ぼす影響について,光学顕微鏡で調べ,本種の外部超微形態と吸汁加害機構の一端を明らかにした。その結果の大要はつぎのとおりである。(1) 口針は植物の汁液を吸収するに役立つキチン質の繊細な長い管で,大腮針と小腮針の各1対からなっていて,大腮針は小腮針を外側からはさみこむような状態で先端が尖っている。(2) 生殖門周囲孔は生殖門の中央前部と両側前後にあって5群を構成している。個々の生殖門周囲孔の中には多数の小孔(室)がみられ,これら室の中には数個のキノコ様突出物があって,それぞれ自在に動く。(3) 背縁分泌孔は数個の小孔が集まって円形の群を構成し,介殻の形成に必要な平板状のろう質物を分泌する。(4) 腺剌は虫体の外縁部に毛状で突出し,先端の開孔部から分泌液を溢出する。(5) 口針の桑条組織中での進入は,最初そう入部位を口針の触覚で探し,適当な場所に口針の大腮針を機械的に運動させてさし込み,これが穿孔運動によって小腮針が誘導されて達成するようである。(6) 桑条組織の表皮から靱皮部に至る口針そう入の経過時間について調べてみると,ふ化幼虫の場合,定着・寄生してから1時間後には木栓・初生皮層を経て靱皮繊維部まで口針が進入し,その2時間後には靱皮部へ到達する。カイガラムシの口針は体内の袋crumenaの中に巻き縮められていて,これが吸汁に際して伸長する。クワシロカイガラムシの雌成虫の場合,桑条組織中においては1.2∼1.8mm程度伸長する。(7) 桑条組織内における口針のそう入は,主に細胞の間隙を縫って進入するが,細胞も貫通する。口針が細胞を貫通した場合,その細胞は直ちに死滅するが,口針が植物細胞の間隙を縫って進入し,細胞に機械的な傷害を与えないかぎり,これら細胞は生きている。